تسجيل الدخول「……さん」
誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある甘い声。でも、どこか焦っているような感じがする。
「佳晴さん!」
はっきりと聞こえ、まぶたを開ける。
視界に映るのは、今にも泣き出しそうな竜希の顔だった。
「竜希……?」
「よかったぁ。起きなかったらどうしようって、心配したんだから」
ほっとしたよう声で言いながら、竜希は僕を抱きしめる。
「あー……ごめん」
まだぼんやりしている脳裏に、昨夜の事が一気に思い出された。
「いや、俺の方こそ、ごめん。嫉妬して酷い事言っちまったし、強引すぎた」
深く頭を下げる竜希。
そんな彼を引き寄せて、額に軽いキスをした。
「佳晴さん……?」
「竜希が悪いわけじゃないよ。僕が、素直に言っていればよかっただけだから。それと、強引にされるのもいいかなって」
「……さん」誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある甘い声。でも、どこか焦っているような感じがする。「佳晴さん!」はっきりと聞こえ、まぶたを開ける。視界に映るのは、今にも泣き出しそうな竜希の顔だった。「竜希……?」「よかったぁ。起きなかったらどうしようって、心配したんだから」ほっとしたよう声で言いながら、竜希は僕を抱きしめる。「あー……ごめん」まだぼんやりしている脳裏に、昨夜の事が一気に思い出された。「いや、俺の方こそ、ごめん。嫉妬して酷い事言っちまったし、強引すぎた」深く頭を下げる竜希。そんな彼を引き寄せて、額に軽いキスをした。「佳晴さん……?」「竜希が悪いわけじゃないよ。僕が、素直に言っていればよかっただけだから。それと、強引にされるのもいいかなって」「興奮した?」「うん、興奮した」「佳晴さんのすけべ」「竜希には負けるよ」言い合って、僕達は同時に笑い出した。こんなちょっとしたやり取りが、とても愛おしく感じる。「ねえ、竜希。まだ、時間あるよね?」「まあ、昼の十二時になったばっかだからな」と、竜希はスマホで時間を確認する。「じゃあさ、少しだけ……いいかな?」「んー? もう少し寝たいの?」と、竜希はいたずらっぽくたずねる。「もう、わかってるくせに。少しだけ……エッチしたい」「よく言えました。いいぜ、少しだけな」そう言って、竜希は僕に口づける。いつも通り濃厚なキスは、昨夜のような激しさはない。代わりに、ねっとりと口内を舐め回される。舌も吸われ、絡められ、愛撫される。「ん゛んっ……! んぅ&h
「……まだ仕事は終わってない、か」スマホで時刻を確認して、僕はため息をついた。篝火から帰宅して、シャワーを浴びたにもかかわらず、体内のどろりとした熱は燻ったままだ。いつも通り彼の部屋――寝室で、彼の帰りを待つ。「竜希……」熱に浮かされたように彼を呼ぶけれど、返事はもちろんなく、静かな部屋に消えていった。深く息をつき、スマホに視線を落とす。気を紛らわそうとSNSを眺めるけれど、内容が頭に入ってこない。脳内に浮かぶのは、竜希の顔で。「……竜希に依存してるなぁ」ため息とともにつぶやいて、ベッドに体を預ける。こんなに誰かを想っているなんて、本当に久しぶりだ。もしかしたら、初めてかもしれない。それほどまでに、僕は竜希を求めていた。体だけでなく、心も作り替えられてしまった。もちろん、嫌ではない。嫌ではないのだけれど……。(竜希……)彼の幻影を追い求めて、手が自然と下半身に伸びていく。「……っ!」スラックス越しに自身に触れ、すでに硬く反り勃っているのを自覚した。竜希がどう触れていたのかを思い出しながら、ゆっくりとさする。ぞわぞわと、甘い痺れが肌を駆け上がってくる。でも、何か物足りない。(……やっぱり、竜希じゃないとだめなのか?)もどかしさに追い立てられるように、直に自身に触れた。「あっ……!」びくりと体が震え、電撃のような刺激が走った。手は止まらず、息は上がる。次第に、頭がぼうっとしてくる。「人のベッドで、何してんの?」突然、竜希の声が聞こえて、僕は弾かれたように視線を向けた。扉の前には、いつの間に帰って来たのか、竜希が腕を組んで立っている。「あ、えっと&hel
翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは
「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」
まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出
「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」
「――今日は、ありがとうございました」カフェを出てすぐに、僕は理沙さんに礼を言った。彼女に話したことで、心が軽くなった気がする。「どういたしまして。もし、また何かあったら言ってください。相談に乗りますので」と、彼女はにこやかに言った。僕は笑顔でうなずいた。友人はある程度いるけれど、この手の話はできないから、本当にありがたい。彼女と別れ、僕は真っ直ぐ帰宅した。日時が決まったら連絡するという彼女の言葉に、胸が躍る。「……そんなに会いたいな
カフェに到着した僕達は、店内の奥にある席を選んだ。周囲に他の客の姿はなく、相談事をするにはうってつけだった。とはいえ、本当に彼女に相沢さんとの事を話してしまっていいのかどうか、今更ながらに悩んでしまう。注文を取りに来た店員に、理沙さんは紅茶とイチゴのパフェを、僕はコーヒーをそれぞれ注文する。「……それで、相馬さんは、何を悩んでるんです?」店員の気配がなくなってから、理沙さんがたずねた。「それは……」口ごもる僕に、理沙さんは肩をすくめて、「まあ大方、相沢先輩との事なんだろうけど」
よそよそしい彼の作り笑いが、仕事中も脳裏にこびりついて離れない。忘れようとして、ジムで汗を流す。けれど、彼の低く甘い声が、耳の奥にこだまして、忘れさせてくれない。自宅に帰ってからも、彼の幻影は消えてはくれなかった。『佳晴さん』ふいに、彼の甘えるような声音が蘇る。「……っ!」劣情を抱えた僕は、窄まりにも手を伸ばす。彼の手つきを再現するように動かすけれど、どこか物足りない。「相沢、さんっ……!」僕は、少し強引に欲望を吐き出す。すっきりしたはず
翌日。体のだるさを引きずりながら、僕は目が覚めた。窓からは、相変わらず暖かな日差しが差し込んでいる。ふと横を見ると、相沢さんがかすかな寝息を立てている。(……きれいだよな)彼の寝顔を見ながら、僕はそんな事を思った。穏やかな寝顔を見ていると、昨夜の激しさが嘘のようだ。僕は、何の気なしに彼の髪をなでる。さらりとした質感がとても心地よくて、ずっと触っていたくなる。「ん……よしはる、さん……?」ぽやっと







